長い間、家族と共に過ごしてきた思い出深い家や、長年経営してきた店舗など、古い建物は様々な思い出が詰まっているものです。しかし、時間の経過とともに建物の老朽化が進むと、売却を検討する方もいらっしゃるでしょう。

特に、近年は地震への意識が高まっていることもあり、古い建物の耐震基準が売却に影響を与えるのではないかという不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、古い建物の売却において重要なポイントである耐震基準について詳しく解説します。また、売却をスムーズに進めるための具体的な方法や、売却時の注意点についてもご紹介します。

古い建物を売却するときの注意点

耐震基準とは?

旧耐震基準

旧耐震基準とは、1950年から1981年5月まで適用されていた耐震基準です。10年に一度発生すると考えられる「震度5強程度」の揺れに対して、家屋が倒壊・崩壊しないという基準です。

技術的には、建物自重の20%の地震力を加えた場合に、構造部材に生じる応力が構造材料の許容応用力以下であるかどうかで判断されます。

新耐震基準(必要壁量の強化)

1978年宮城県沖地震において家屋倒壊被害が甚大(全壊1,183棟 半壊5,574棟)であったことから、本地震から3年後の1981年に建築基準法の改正及びその施行が行われました。

この時の建築基準法改正は、建築物の耐震基準の強化で「震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7程度の大規模地震でも倒壊は免れる」強さとすることを義務づけたものに改正されました。

2000年基準(接合部の仕様等の明確化)

2000年基準では、地盤に応じた基礎の設計、接合部への金具の取り付け、偏りのない耐力壁の配置など、旧耐震基準を強化する内容が盛り込まれました。また、基礎は地耐力(建物の荷重に対する地盤が耐える力)に応じた「基礎構造(べた基礎・布基礎)」とすることがルール化されました。

地震における建築物被害

熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会の報告書によると旧耐震基準(昭56年5月以前)の木造建築物の倒壊率は28.2%(214棟)に上っており、新耐震基準の木造建築物の倒壊率(昭和56年6月~平成12年5月:8.7%(76棟)、平成12年以降:2.2%(7棟))と比較して顕著に高かったことが確認されています。

新耐震基準は旧耐震基準の約1.4倍の壁量が確保されているため倒壊を免れたと考えられています。

能登地震においても同様の傾向で旧耐震基準の建物の全・半壊は5割、新耐震基準でも2000年以前の建物は3割が全・半壊となっています。

新・旧耐震基準は建築確認日で見分けられる

新耐震基準と旧耐震基準は、建築確認日によって判断できます。建築確認日とは、建物を建築する前に役所や民間の確認検査機関に申請し、問題がないと判断され、申請が受理された日です。

新耐震基準は1981年6月1日から適用されており、それ以降の建築確認日であれば新耐震基準の建物と判断できます。

建物が完成した竣工日が1981年10月となっている場合でも、建築確認日が1980年10月となっていれば、旧耐震基準で建てられていると判断できます。

建築確認日は、建物を建てたときに工務店から渡される建築確認通知書で確認できます。
建築確認通知書を紛失した場合は、「建築確認概要書」や「建築確認台帳記載事項証明」などの建築に関する調査書を市区町村から取得することもできます。

○建築確認日と耐震基準

  • 1981年(昭和56年) 6月1日以前→旧耐震
  • 1981年(昭和56年) 6月1日以降→新耐震
  • 2000年(平成12年) 6月1日以降→新耐震(2000年基準)

耐震基準が売却に与える影響と対策

国交省によると全住宅流通量に占める既存住宅の流通シェアは約14.5%(平成30年)にとどまっており、欧米諸国と比べると1/6~1/5程度と低い水準にあります。
 
また、住宅のリフォーム市場規模についても、住宅投資に占める割合が諸外国と比較して小さい水準にあります。

古い建物は旧耐震基準など質に対する不安が大きいことや、木造であれば築後約20年~25年で価値がゼロと評価されてしまう慣行があるため売却が進みづらいのが現実です。

建物が古い場合にはリフォームをする、建物に対価を設定しない(土地として売買)、契約不適合を免責として不動産会社に買取ってもらうなどの方法で売却を進めることができます。

旧耐震の建物でも耐震診断を行い、新耐震基準に適合することが確認されれば、検査を受けて既存住宅売買瑕疵(かし)保険※に加入することもできます。

※既存の住宅を売買する際に、不具合や欠陥の修繕費用などを保証する保険

耐震診断の費用は、建物の規模によりますが木造住宅の場合10~40万円ほどです。自治体が耐震診断の費用助成をしている場合があるので確認しておきましょう。

東京都城南地域 自治体の空き家に関する取り組み

東京都城南地域の自治体の空き家対策や空き家を所有する方に対する補助金、制度を紹介。各区へのリンクあり

築年数による売却価格への影響

査定額の算出において築年数は重要な要素となります。
税法上の建物の耐用年数によると、木造戸建て住宅は22年、鉄筋コンクリートなどのマンションは47年となっています。

そのため、売却における建物の価値査定という観点では、築25年以上の戸建ては価値がゼロとして扱われることがほとんどです。
あくまで税法上の耐用年数ですので耐用年数を過ぎたら住めなくなるわけではありません。実際には建物にも価値があるわけですが、査定金額には反映されにくいものです。

高い価格での売却を望むのであれば、築10年程度までの間に早期に売却するほうがいいですが、都心部などある程度人気のあるエリアの物件であるなど、築年数以外の条件によっては希望に沿った売却が可能なケースもあります。

不動産価格への築年数の影響グラフ
国交省:中古住宅流通、リフォーム市場の現状より引用
中古マンションの築年数による原価率グラフ
2023年レインズマーケットデータより筆者作成

古い建物売却時の注意点

建物の現状を正確に把握する

建物の構造や設備の状態、修繕履歴などを正確に把握しておくことが重要です。購入希望者からの質問に正確に答えることができないと、売却に時間がかかったり、トラブルに発展する可能性があります。

価格設定

周辺の類似物件の売却価格を参考に、適切な価格設定を行いましょう。価格が高すぎると購入希望者が見つからず、低すぎると損をしてしまう可能性があります。

耐震基準を満たしていない建物は、買主にとってリスクとなるため、売却価格が低くなる可能性があります。

相続した建物の場合

相続した建物の場合、共有者全員の同意が必要となります。また、相続税の納税義務など、特有の注意点があります。

まとめ

古い建物の売却は、耐震基準をはじめ、様々な注意点があります。スムーズに売却を進めるためには、事前に専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることが重要です。

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投稿者プロフィール

栄不動産
・不動産業界20年の経験を持つベテラン
・宅地建物取引士、不動産コンサルティングマスター、賃貸不動産経営管理士、ファイナンシャルプランナーの資格を保有
・実需不動産、投資用不動産、任意売却など幅広い分野の実務経験
・これまでに数多くのお客様の不動産売買、賃貸、資産運用をサポート

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